重症筋無力症とは
重症筋無力症(Myasthenia Gravis、MG)という病気は、腕や脚の力が弱くなる、まぶたが垂れて下がる、物が二重に見えるなどの症状を起こす病気です。重症になると食べ物が飲み込めない、息が苦しいといった症状が起こることもあります。
この病気は、運動を続けた後や、夕方、疲れが出る時間帯にだけ症状が生じる場合もあるため、「なまけている」とか「心の問題」などと誤解される場合もあります。患者さんが見逃されることのないよう、早く専門医を受診されるよう願っています。 早期に適切な治療を受けることがとても大事だからです。
重症筋無力症は、厚生労働省が指定する難病(特定疾患)の一つです。神経と筋肉のつなぎ目(神経筋接合部といいます。「重症筋無力症の病態」の項を参照下さい)に障害が生じ、筋力が低下します。現在、日本では20,000人以上の患者さんがいると推定されています。発症年令は小児から高齢者まで幅広いのですが、最近では高齢になってから発症する方の頻度が増加傾向にあります。
この病気の歴史は古く、ヨーロッパでは、17世紀からその存在が知られていたようです。しかし、病気の原因が解明され始めたのは1970年代以降であり、それまでは病名の通りしばしば重症化し、 不幸な転帰をとる場合も少なくなかったようです。
1980年代ぐらいからは、様々な治療が普及しはじめ、現在では、この病気が原因で亡くなる方はほとんどいなくなり、きちんとした専門医に治療を受けていれば、学業や仕事と治療をなんとか両立している方が少なくありません。
ただし、この病気は、完治する場合は少なく、完治する場合でも年単位の時間を要することが多く、完治せずに長年にわたり投薬を受けている方が少なくありません。特に、発症後、強力な治療の開始が遅れるほど治りにくくなると考えられています。早期の治療が望まれる所以です。
重症筋無力症の症状
重症筋無力症の症状は、まぶたが垂れ下がったり(眼瞼下垂、がんけんかすい)、眼球の動きが悪いため物が二重に見えたりする(複視、ふくし)眼筋に関係する症状、だるさやまひのために腕を上げられなかったり、脚がもつれたりする四肢筋の症状、食べ物や飲み物を飲み込めない喉の症状と多彩です。
重症の場合は、呼吸困難になることもあります。眼筋の症状に限局するものを眼筋型,全身の症状を呈するものを全身型として区別します。
眼瞼下垂,眼球の動きの障害はしばしば左右差を示します。全身症状は左右ほぼ対称な場合が多いのですが、まれに左右どちらかの片側麻痺や一本の腕や脚の麻痺の様な分布がみられることもあります。
重症筋無力症患者さんの約半数は発症時には眼筋症状のみ呈しますが、そのうち半数以上は2年以内に全身型に進展します。
こうした症状は、反復動作、持続運動で明らかになりやすく、「易疲労性(いひろうせい)」と呼ばれます。
また、一日の様々な活動により、時間がたつにつれて次第に筋力が低下する傾向があり、一 日の中でも比較的夕方以降に症状がでやすい(日内変動)という特徴があります。
忙しく動き回った日は症状が強くなります。休息を取ることで症状の改善傾向が生じます。
特に病初期には、日によって症状の程度が不安定に変化する場合(不安定性)もあります。
まぶたが下がってきたり、眼の動きが障害されたり、客観的に他人が観察できる症状は把握されやすいのですが、手足の易疲労性だけが日内変動、不安定性を伴い生じた場合、見逃され、なまけていると勘違いされる可能性があります。
この病気の患者さんの訴えとして参考となるものを挙げます。
もし、心当たりの方がいらした場合、専門医を受診ください。
重症筋無力症では多彩な症状がみられるうえ、日内変動があり、外来診察だけで患者さんの状態を正確に把握するのは困難な場合があります。
下の表は、重症筋無力症の重症度を評価する「QMGスコア」です。合計点数が高いほど重症ということになります。
夕方など調子の悪いときに、患者さんご自身でも評価し(肺活量や握力は測定出不要)、ご自分の状態が正確に主治医に伝わるようにします。例えば「いつもは6-7点だったQMGが最近、11-12点と高くなっています。腕と脚の挙上持続がいつもの半分位です」という感じで。正確な症状を評価しながら、正しい治療を検討していきます。
〔 監修・総合花巻病院神経内科 部長 槍沢公明先生 〕